大阪高等裁判所 昭和31年(う)611号 判決
しかして原判決を調査すると、原判決は被告人が選挙の事前運動に際し他人に対し現実に金品供与の申込をした事実を認定し「本件の授受金品は授受後受領者から鈴木に返還せられ更に鈴木から出捐者である被告人に交付せられ同被告人において既に費消し没収することができないから」という理由で公職選挙法第二百二十四条を適用して被告人からその価格六万三百円を追徴しているのである。しかしながら記録によると、原判決の説示する通り右金品は右供与の申込を受けた福井豊之助においてこれを承諾することなく同人から原審相被告人鈴木に返還せられ同人から更に出捐者である被告人に返却せられているのであるから公職選挙法第二百二十四条の「収受し又は交付を受けた利益」ということができないことが明らかである。従つて同条を適用して被告人からその価額を追徴した原判決は破棄を免れない。しかし当審で直ちに判決できるものと認め刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書の規定に従い次の通り判決する。
原判決確定の各事実をその挙示する証拠で認め候補者に対する各金品供与申込の点は公職選挙法第二百二十三条第一項第一号に、各事前運動の点は同法第百二十九条第二百三十九条第一号に該当するところ、右は各一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから刑法第五十四条第一項前段第十条を適用して最も重い右金品供与申込罪の刑に従い所定刑中懲役刑を選択して処断すべきところ右は同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条第十条により法定の加重をしその刑期範囲内で被告人を主文の刑に処し、情状に因り同法第二十五条第一項を適用して二年間右刑の執行を猶予し、なお情状に因り公職選挙法第二百五十二条第三項の規定を適用して同条第一項の規定は適用しないこととする。
(裁判長判事 斎藤朔郎 判事 網田覚一 判事 小泉敏次)